2024/03/25
地方都市への大型会議の誘致。
その現状と課題、今後
大型会議の多くが都市部を中心に開催されるなか、地方都市へどう誘致するか。
課題と今後の対策とは
学会名 | 第43回日本看護科学学会学術集会 |
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会 期 | 2023年12月9日(土)・10日(日) |
会 場 | 海峡メッセ下関・下関市生涯学習プラザ・下関市民会館 |
2023年12月9日(土)~10日(日)、山口県下関市にて第43回日本看護科学学会学術集会が開催されました。
この学会は参加人数が約4,000名もの参加人数となる大規模なもので、通常このような規模の学会は大都市部で行われる傾向にありますが、今回は主催者の地元での開催を望む声を受け、地元のコンベンション協会と協力して誘致に成功し、大成功裏に終了いたしました。
この学会開催において多大なご協力をいただきました下関観光コンベンション協会様に取材の機会を得て、MICE誘致において、現状としてどのような課題に直面しているのか関係者にお話を伺いました。
近年のMICE誘致と開催状況の変遷:金山氏
最近の数年間、学会を含むMICE誘致と開催状況は、COVID19の影響が残りつつも徐々に回復の兆しを見せています。この動向について、金山氏が以下のように語ります。
「COVID19感染拡大時には、誘致の話が全く進まない時期がありました。しかし、今年以降は開催と誘致が徐々にコロナ前の状態に戻りつつあり、大部分は現地での開催が増えています。MICEイベントが再び順調に伸びつつある状況です。」
一方で、地方都市の協会が直面している課題について金山氏は次のような課題を挙げています。
- 誘致と支援担当の人員が限られている
- 主催者になりうる営業先が市内には限りがある
- 他協会との支援施策の差別化が難しい
これらの課題を解決するためには、地域全体での取り組み連携や、より柔軟で多様な支援策の検討が求められています。金山氏は「地域の魅力を最大限に引き出し、MICE開催を成功に導くためには、様々な視点でのアプローチが必要です」と述べています。
MICE誘致への新たな視点と対応策:金山氏
SDGsの観点から、これまでのPRグッズ等の提供を見直し、その代わりに助成金の増額や会期中に必要な物的支援に注力していきたいと考えています。また、隣接他都市で開催されている会議に対して下関への無料観光バスの運行サービスの実施などで、観光客の下関に呼び込むという新しいアプローチも検討しています。
COVID19感染拡大時やその直後にハイブリッド開催が求められ、オンライン配信のニーズが増えました。この中で、インターネット環境設備が重要視され、需要が高まっています。我々は市や施設に働きかけ、海峡メッセの館内に光回線を配備するなどして、誘致施策にも生かしています。館内にはオンライン会議のポスターがの掲示など新しいインフラの設備のPRも行っています。
これらの取り組みは、変化する状況に適応する柔軟性を持ち、持続可能性の観点からも重要な方針です。地域振興とMICEの開催成功を目指して、彼らは積極的かつ創造的な方法を模索しています。
PCOやイベント会社への協力促進に向けた要望:金山氏
支援施策はホームページに掲載されているだけではないので、PCOやイベント会社には積極的に相談して欲しいです。協会は地元において有益な情報やノウハウを持っています。また、誘致の際には主催者に対して、コンベンション協会の活動や存在を知らせてもらうと助かります。協会が提供できる価値を主催者にもっと広くアピールできるようにしていきただきたいと。
JCDの考える、地方都市におけるMICE誘致の課題と提案
見えてきた課題
今回の開催受け入れにおいて、下関観光コンベンション協会様との話し合いを通じて、地方都市でのMICE誘致に関する課題が浮かび挙がりました。以下に、具体的な課題を整理します。
- アクセスの不便さと宿泊施設の少なさから敬遠されがち
- 市内にはMICEを主催される大学・企業・団体が少ない
- 大型展示場会が併設される場合、見合う展示場がない
- 誘致やPRできる人員や体制が限られている
- 他と異なる画期的誘致コンテンツが打ち出しにくい
これまでにもPRや支援体制を整えてきたものの、大都市の会議施設に主催者の選択肢が集中し、大型会議の誘致が難しい状況が続いていました。
しかし、コロナ禍を経て、様々な開催形式が普及するなかで、これまでの開催条件が変化しているとの認識があります。
今後の誘致の考え方や提案
また、今までは多くの会議主催者からお聞きした開催に対する思いと開催地の関係を整理すると以下のようになります。
①たくさんの人に来てもらいたい | 大都市圏は参加者数が増加する |
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②総予算(参加費・協賛金)が心配 | 大都市圏は企業協賛が集まりやすい |
③会場規模が気になる | 大都市圏は部屋数・席数・展示会場が大きい |
繰り返しになりますが、ただしコロナ禍を経て、従来の会議やイベントの開催スタイルに大きな変革が訪れつつあります。これまで多くの参加者や協賛企業を呼び込むためには、アクセスの良い大都市圏での開催が有利でしたが、最近では協賛金の減少傾向が続き、大都市圏の高額な開催費用に悩む事例が増えています。
そうした中、新たな開催方式が「完全オンライン開催」と「ハイブリッド開催」です。この開催方式がこれまでの会議開催の常識を大きく変えるものになりました。参加者は開催場所に縛られることなく、大都市も地方都市も参加人数が同等になります。さらに、必ずしも現地に来る必要性が無いので大規模で高額な施設も必要無いわけです。
そこで今後は以下の構図が成り立つと考えます。
上記により大都市圏でも地方都市圏でも、主催者にとって同等の成果が得られます。
だからこそ、地方都市のMICE誘致はこれまでとは視点を変えて、MICE自体の誘致ではなく、参加者の集客(行きたくなること)にポイントに定めてはどうでしょうか。
例えば、オンラインを利用したハイブリッド開催のニーズがまだ続く中、観光地の施設やホテルにオンライン会議ブースの設置などのインフラの拡充と充実を行うことで、参加者本人は観光地・リゾート地からオンラインで参加や研究発表(Work)を行い、終了後や空き時間に同行した家族と休暇(Vacation)を楽しむことができる場所‛‛ワーケーション‛‛を売りにするもの良いと考えます。
このようなアプローチにより、地方都市はMICEの開催地としてだけでなく、参加者にとっては魅力的なワーケーションスポットとなります。地域振興と新しい働き方の提案が一体となり、地方経済の活性化に寄与することが可能になります。
協力
- 一般社団法人下関観光コンベンション協会 誘致課長 金山映子 様
- 第43回日本看護科学学会学術集会 会長 田中 マキ子 様(山口県立大学 学長)