2026/07/29
学会を社会にひらく
―誰もが参加できる運営モデルとは

| 学会名 | 第31回日本緩和医療学会学術大会 |
|---|---|
| 会 期 | 2026年6月19日(金)~20日(土) |
| 会 場 | 福岡国際会議場、マリンメッセ福岡A館/B館 |
| 参加人数 | 7,400名 |
「閉じない学会」への挑戦:テーマに込めた思い
第31回日本緩和医療学会学術大会(2026年6月19日~20日開催)は、「こえをきき、ともにつくる」をテーマに掲げ、緩和ケアを学会参加者だけのものでなく、市民・こども・参加者の家族とともに育む「ユニバーサルなもの」にすることを目指しました。大会長の余谷暢之氏(国立成育医療研究センター 総合診療部緩和ケア科)は、このテーマに込めた思いを語ります。
緩和ケアの広がりと社会との共創
近年、医療の進歩により、病と向き合いながら生活する人々が増加しています。がんだけでなく、非がん疾患、小児、高齢者、そして「孤独・孤立」といった社会課題においても緩和ケアの重要性が高まっています。余谷氏は、「医療だけでは解決できない課題が多く、患者さんの『こえ』に耳を傾け、社会と共創することが不可欠」と語ります。今回の学会は、緩和ケアへの「参加の敷居」を下げ、多世代・多職種の対話を通じて「共創」の輪を広げることを目指しました。
市民公開イベント「いのちの交差点」:多様な「得意」が出会う場
学会2日目には、市民公開イベント「いのちの交差点 ~つなごう『得意』、ひろげよう未来への可能性~」が開催されました。この企画は、病気を持つこどもとその家族が、医療の枠を超えて社会とフラットにつながる場を提供することを目的としています。余谷氏は、「助ける人」「助けられる人」という関係を超え、参加者それぞれの「得意」を持ち寄り、互いに学び合うことで心の壁を低くしたいと語ります。
「いのちの交差点」に込められた意味
「いのちの交差点」という名称は、多様な特性を持った人々がともにオーケストラを構成する、イギリスの「ミュージックジャンクション」という企画から着想を得ています。余谷氏は、「いろんな人が行き交うミニ社会のような場所」をイメージして名付けたと言います。
イベント内容:体験と交流で緩和ケアを身近に
●ステージイベント
「あかはなそえじ」のいのちの授業、こどもまんなかリレーシンポジウム、スペシャル対談などが開催された。
●体験イベント
「いのち」の作品作り、心肺蘇生・診療体験、スポーツ体験コーナーなど。特にスポーツコーナーでは、プロスポーツ球団のCSR活動を紹介するブースも設けられ、多様な「得意」が社会に還元される仕組みが構築され、こどもから大人まで楽しめるコーナーがずらりと並んだ。
体験コーナーの様子:「いのち」をテーマにした企画が会場を埋めた
家族参加を後押しする「キッズ企画」
こどもたちが学会運営に主体的に携わることを通じ、学会を「大人に連れてこられる場所」から「こども自身が能動的に参加し、主役として楽しめる場所」へと変えることを目的としています。
その一環として実施されたのが「影アナ(進行アナウンス)体験企画」です。こどもたちが実際の講演会場の進行席に着き、開演や休憩の案内といったアナウンスを担当することで、裏方として学会運営を支える大人の仕事を体感し、こども自身も学会の「主役」の一人として参加する機会となりました。
「参加の壁」を下げるアクセシビリティの工夫
学会では、多様な背景やニーズを持つ参加者が等しく学びの機会を得られるよう、アクセシビリティに配慮した環境整備に取り組みました。
●お子さん同伴への配慮
基本的にはすべてのセッションでこども連れOKとし、ベビーカー置き場や休憩スペースも確保。「お互いが譲り合い、配慮し合えば、こどもがいても参加できる」という余谷氏の考えに基づき、家族単位での参加を歓迎しました。
●サテライトルームの設置
講演会場に入らなくてもサテライトルームでこどもたちを遊ばせながら学べる場を用意しました。
●託児室の設置
小さなお子さん連れの参加者が安心して聴講できるよう、事前予約制の託児室を完備。
●オンデマンド配信
現地参加が難しい方のために、主要プログラムのオンデマンド配信も実施。
これらの取り組みにより、参加者は「参加を諦めないで済む」「家族単位で学べる」といったメリットを享受し、学会への「参加の壁」が大きく下がりました。
学術大会の新たなモデル:社会への波及効果と未来への展望
今回の学術大会は、緩和ケアの社会理解を深めるうえで大きな波及効果が期待されます。学会が専門家だけの閉じた空間ではなく、市民、こども、家族へと開かれることで、緩和ケアが「特別な医療」から「ユニバーサルなケア」へと認識が変化するきっかけとなります。
「ゴールを設定しない」運営哲学
余谷氏は、今回の企画運営において「ゴールイメージを具体的に設定しすぎない」ことを重視しました。「自分が考えているゴールを超えるような、予想外の展開や、参加者それぞれの感じ方、気づきを大切にしたかった」と語り、押し付けではない、自由な学びと交流の場を提供することを目指しました。この「ゴールを設定しない」哲学は、参加者一人ひとりが主体的に関わり、自分なりの「何か」を見つけることを促す、今回の学会の根幹をなす考え方と言えるでしょう。このような「閉じない学会」の運営モデルは、他の学術大会にとっても示唆に富むものです。多様な参加者層を取り込み、社会との接点を増やすことで、学術的な成果を社会に還元し、社会貢献を果たす新たな学術大会のあり方を提示しています。
今後の学会運営・緩和ケアの発展に向けたメッセージ
余谷氏は、今回の学術大会を通じて、緩和ケアが年齢や属性を超えて社会全体で語られるきっかけとなることを願っています。他の学会主催者の方々へは、学術的な専門性を追求するだけでなく、社会との対話を積極的に行い、多様な人々を巻き込むことで、学会の価値をさらに高めることができるというメッセージを送ります。
JTBコミュニケーションデザインも、このような持続可能で社会に開かれた学会運営を今後も支援してまいります。そして、市民やご家族の皆様には、緩和ケアは決して遠い存在ではなく、誰もが自分らしく豊かな人生を送るために支える医療であることを知っていただきたいと願っています。この学会が、緩和ケアを必要とする誰もが、より自分らしく、尊厳を持って生きられる社会の実現に向けた、新たな一歩となることを期待しています。
協力
- 第31回日本緩和医療学会学術大会 大会長 余谷 暢之 様
- 一般財団法人福岡コンベンションセンター 様
