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2024.12.24
「映文連アワード2024」にて、奈良県の「飛鳥・藤原」プロモーション短編映画「Boy Meets...」が優秀企画賞を受賞!
1400年の偶然と必然が織りなすストーリー
2023年度の奈良県世界遺産室が公募した『令和5年度奈良県文化資源活用大網推進事業』の一環で制作された、世界遺産登録を目指す「飛鳥・藤原の宮都」を舞台としたフィクション&ドキュメンタリー映画「Boy Meets...」が、2024年秋開催された公益社団法人映像文化製作者連盟主催「映文連アワード2024」のソーシャル・コミュニケーション部門において優秀企画賞を受賞しました。受賞に至るまでのJCDの関わりとは?事業により改めて感じたコミュニケーションの大切さとは何か?企画発案段階から関わるコーディネイター平塚氏とJCD担当者の米川が語ります。
- 映文連アワード2024 ソーシャル・コミュニケーション部門の受賞を受けて
- 企画提案に向けてチームづくり 事業推進のために整えた"信頼関係"
- 地下に埋まった考古遺跡「飛鳥・藤原」を舞台に、ストーリーを描く難点
- 順風満帆なだけではない、映像作品制作
- 過去と未来をつなぐ、創造的な文化遺産の発信
1 映文連アワード2024 ソーシャル・コミュニケーション部門の受賞を受けて
米川
「映文連アワード2024」(※)で私たちが携わった世界遺産登録を目指す奈良県の文化遺産「飛鳥・藤原の宮都」のプロモーション短編映画が、優秀企画賞を受賞しました。とても光栄に思います。選考経緯となるアワードの講評も大変嬉しい内容でしたね。
(※)『映文連アワード』:プロフェッショナルの仕事にふさわしい作品を積極的に発掘・顕彰することによって短編映像業界の活性化を図るとともに、次世代を担う新しい才能(学生・個人)を発掘し、映像業界のインキュベータとしての機能を担うことを目的として、2007年に創設
平塚
本当ですね。日本という国の基盤が築かれた飛鳥時代。その遺跡を舞台にした日韓の瑞々しい現代ラブストーリーを通じ、悠久の歴史が映し出されたことが、専門家によって評価されたのではないかと想像しています。元々ターゲットとしていた国内外の若年層をはじめ、幅広い新しい層へ共感を生み、「飛鳥・藤原」への興味の質を深めたように思います。
米川
本当にその通りです。携わった多くの方々、協力してくださった地元の方々に感謝しています。
奈良県様が課題とする、1400年という長い年月により地下に埋まってしまった遺跡への興味喚起が難しいところでした。富士山のようなシンボルがないので、前知識がないと興味を持ちにくい場所だと考えていましたので、ストーリーには、心に響く脚本をもって映像を作り、若い世代や訪日外国人という歴史になかなか興味を抱いていない方々にも、「飛鳥・藤原」に興味を持ち訪れたくなるきっかけを作りたい、その思いで取り組んでいました。講評でそのあたりも評価されて嬉しかったです。
平塚
洗練された編集やカメラワークで映画館上映レベルの作品にも仕上がりました。そうしたクオリティの映画制作を可能としたプロが結集してくださいました。
米川
私は以前、家族で「飛鳥・藤原」へ旅行した際、巨石で構成された古墳や石造物などを目の当たりにし圧倒され、"日本の原風景"というのどかな風景の中、まるで自然に還ったような感覚になりました。その体験をこの作品で表現できないかと考えていたのですが、実際にその景色が美しい映像として描かれ、あらためて感銘を受けています。
2 企画提案に向けてチームづくり
事業推進のために整えた"信頼関係"
米川
私はリラックスした雰囲気が良いクリエイティブを生む環境だと考えています。このリモート時代、自然でスムーズな交流ができるチームづくりが重要だと感じていました。以前ご一緒した際に自然と打ち解け、たくさんのアイディアをくれた平塚さんにお声がけしたのはそのためです。
今回は単なる観光プロモーション動画ではなく、見た人の心に何か残るものをつくるべきだと強く思っていました。そのため、企画提案では、『奈良県で奈良県民とつくる物語』をコンセプトに、地元での人脈が深い奈良県の協力会社と、幅広い人脈を持ちアイデアマンとして信頼できる平塚さんをチームに迎えて臨みました。
平塚
米川さんから相談を受けた時、アイディアが続々と浮かんできました。
それこそ家にいることが増えたコロナ禍がきっかけで、元々好きだった「映画」や「写真」を観て楽しむ時間が加速的に増えていたんです。そんなある日のこと。物静かな中に強さを秘めた、とある映画のポスターが目に止まって。心惹かれ、その作品をすぐに鑑賞しました。監督が所属されている会社がカンヌや釜山の国際映画祭に招待されたニュースも目に入り、世界遺産登録を目指す文化遺産と世界に通用する才能をコラボレーションすることで、素敵な化学反応が起きるんじゃないかと夢想しました。
米川
平塚さんから複数の監督と作品を紹介いただいたのですが、中でも私が広瀬奈々子監督に作ってほしいと思った理由は、ラストシーンが物語もしくは人生はまだまだ続いていくと、余韻を残して続きを思わせる感じが、奈良県の「奈良県文化資源活用大綱」にある「心を耕す」というフレーズを叶えるのではと考えたからです。また、監督の独創的な視点が悠久の歴史文化を巧みに引き出してくれると期待しました。監督から承諾の連絡を聞いた時は飛び上がって喜びました。
その後、プロポーザルで当社が選定され、信頼関係に基づいたチームづくりと、それぞれの強みを活かした協力体制が、今回の企画提案の成功につながったと感じています。
3 地下に埋まった考古遺跡「飛鳥・藤原」を舞台に、ストーリーを描く難点
米川
広瀬監督との初めての電話は、今でも鮮明に覚えています。監督は、「何を作ればいいの?」と率直に尋ねられました。明日香村の原風景や巨石、飛鳥時代に女性天皇がいたこと等について話し、時代劇ではない若者に響く短編映画を作ってほしいとお伝えしました。これは監督にとっても難題だったようです。飛鳥時代の知識も懸念されていたため、考古学の専門家へのヒアリングする機会があるので、一緒に知識を得ながら方向性を考えていきませんかと提案しました。その時のことを後の上映会トークショーで監督が「撮影するものが何も決まっていない、ここに面白味を感じて受けました」と仰っていて、心の広さに感服しました。ただ、受託決定後も私の中では難題を前に不安が渦巻いていました。
平塚
脚本作成に入る前に、考古学の専門家に飛鳥時代や遺跡についてヒアリングを行いましたね。様々な研究者様と出会えたことにより、"文化遺産を守り伝えること"への意義について、あらためて考えさせられもしました。
米川
そうでしたね。例えば、古都保存法の特例法である「明日香法」により、環境と一体になって文化遺産が護られてきた取り組みがあるから、良好な遺構として発掘される。これが古代の面影を残す美しい明日香村にも繋がっているんだなと感動しました。
シナリオハンティングでは、考古学研究所で発掘調査を担当されていた奈良県のご担当者様のガイドで遺跡を巡りました。遺跡に対する熱意あふれる解説に、広瀬監督がどんどん引き込まれていらっしゃるのを感じ、その後、広瀬監督から「現代劇という設定はどうか」という提案があり、現代の「飛鳥・藤原」を舞台とする構想が生まれたのだと思います。また有識者ヒアリングでは、渡来人やその後に帰化した人々の存在について知り、「日本人とは、国とは何か」と強く興味を持たれたようでした。
奈良県様にガイドいただいたシナリオハンティングや、有識者ヒアリングでインタビュアーを務めてくださった平塚さんの深掘りも相まって、企画提案時の不安が払拭されていきました。
平塚
ヒアリングの都度、そのように表現してくださいましたので、ますますやる気にスイッチが入りました。
米川
最終的に、監督から提案されたプロット案を基に、奈良県様とのディスカッションを経て脚本の方向性が固まりました。現代の「飛鳥・藤原」を舞台とし、韓国人女性と日本人男性を主役にした男女の淡い物語を描くことになり、巧みに「渡来人」を伏線として織り込んだ仕掛けが秀逸でした。この独創的なアプローチが高い評価につながったと考えています。
4 順風満帆なだけではない、映像作品制作
米川
予算面では苦戦しまして、撮影を超過密スケジュールに計画せざるを得ませんでした。そのうえ4日間の撮影のうち2日間が雨天で、予備日も使用したため追加費用が発生し、予算ありきで計画通りに作れないことを痛感。クライアントと制作陣との間を奔走しましたね(笑)。
平塚
そういった苦労があったのですね。でも、嬉しい偶然もあったと聞きました。作品のキーワードとしてでてくる韓国人のユニが歌うじゃんけん歌が作品にリンクしていたとか。
米川
はい。「アッチムパラム」」は「朝の風」という意味で、ユニが自転車で走った坂道は「朝風峠」だったんです。さらに「ウルゴガヌンチョギロギ」は「鳴く鳥が飛んでいく」という意味で、映像の最後の二人が鳥の真似をするシーンがある場所は古代から「飛鳥」と呼ばれていた場所でした。すべて偶然の一致なのですが、すごくないですか。
監督によると、和訳を意図して選定した歌ではないとのことで驚きました。音楽のあるシーンは背景が複合的になるため歌を映画の中に取り入れるのが好きで、言葉を超えた交流を描きたかったそうです。
平塚
エンドロールの歌「Polaris(ポラリス)」も、とても作品に合う曲でした。
米川
シンガーソングライターの方に「飛鳥・藤原」を訪れインスピレーションを得てつくっていただきました。奈良県の担当者様から伺ったのですが、この歌もまた偶然にも飛鳥・藤原とのリンクがあるんです。「Polaris(ポラリス)」とは宇宙の中心となる「北極星」のことで、飛鳥時代には「太極星」と呼ばれていました。そして、主人公たちが再会した藤原宮の中心には「大極殿」があるんです。また、「あなたと私が」という歌詞は天武天皇と持統天皇を想起させ、「忘れられし歌」は二人が交わし合った万葉歌を指しているかもしれない、と推測されていました。
平塚
そういえば、明日香のお宿キトラ様もロケ地として登場する予定で、御夫婦に出演の予定はなかったですよね。
米川
そうですね。偶然にもご主人が渡来人についてとても詳しくて出演いただくことになり、作中で語っていだだいた内容はまさに監督の意図に沿うもので、作品に深みを与えてくれました。キトラ様を推薦してくれたのは平塚さんでしたね。
5 過去と未来をつなぐ、創造的な文化遺産の発信
平塚
より良い形で守り継いでいけるなら、嬉しいことです。関わった人皆に"いい物作りをしよう"という心意気がありましたし、みんなが一つの方向を見ていました。多才なクリエイター陣が気持ちよく仕事できるよう、米川さんがその役割を果たしてましたよね。その結果、素晴らしい作品を共同創造することができました。そのことも、今回の受賞に至った要因のひとつではないかと思いました。
米川
自分自身もこの事業を通じて古代遺跡への理解を深め、古代の人の暮らしや教科書では学ばなかった歴史的背景、他国との関係にも目を向ける結果となりました。現代を描きながらも1400年前の「飛鳥・藤原」とのつながりを感じられる作品になり、飛鳥時代の遺跡や文化、国際交流など、興味を持っていただける作品に仕上げていただいた広瀬監督をはじめ、奈良県様、そして多大なる協力いただいた皆さまに心から感謝しています。
また、人の"縁"の大切さを痛感しました。想像を超えた"縁"が新たな"縁"を呼び、さらに大きな"円"を描きました。JCDは複数の会社が合併して誕生した企業であり、多種多様なプロフェッショナルが集まっています。そのため、社内でも新たな気づきが生まれやすい環境にあるんです。クライアント様の多岐にわたる要望にお答えしてきた実績は、まさに"コミュニケーションの場"を創造する力によるものです。一つのプロジェクトにつき考え方が違う人々が大勢集まるわけですから、もちろん難しい側面は避けられないでしょうけど、今回の受賞をきっかけに自分を見つめ直すことができたので、これからも足りないところを互いに補い合える=活かし合える、そんなチームづくりを意識し続けていくつもりです。
奈良県地域創造部 世界遺産室の担当者のコメント
「飛鳥・藤原」の価値を示す考古遺跡は、地下に埋まっているため、現在の風景で国内外の人びとに世界遺産たりうる価値を伝え、感じてもらうのが非常に困難です。また、古代史ファンには根強い人気を誇る飛鳥時代ですが、歴史に興味のない人びとにとって訪れてみたい場所の選択肢になかなか登らない点も悩みどころの一つといえます。
今回制作された短編映画「Boy Meets...」を入口として、今まで「飛鳥・藤原」のことを知らなかった方々、歴史に興味がない方々に「飛鳥・藤原」の存在を知っていただき、その風景に魅力を感じていただくきっかけになったことは間違いありません。そして、歴史に興味がわいたわけではなくとも、映画監督の作品のファン、主演俳優のお二人のファン、主題歌を制作くださったシンガーソングライターのファンの方々が、この作品をきっかけとして、この地を訪れてくださることを期待しています。
現在、奈良県には3件の世界遺産があり、「飛鳥・藤原」の世界遺産一覧表への記載が実現すると4件目の世界遺産となります。奈良県といえば、国内外問わず「大仏さま」と「鹿」のイメージが圧倒的に強いですが、そればかりではない側面を知り、一度ゆっくり滞在しながら県内各地を訪れ、日本のいにしえの都・奈良の魅力をたくさんの方々に体感していただきたいです。
奈良県世界遺産室では、「飛鳥・藤原の宮都」は2024年9月に世界遺産推薦候補に国に選定され、2026年の登録を目指しています。
明日香のお宿キトラ 田中祐二・孝子様のコメント
明日香村は開発の波から守られ、子どもの頃と同じ風景で私達を包んでくれています。
田畑、里山、そして川...。朝陽や夕陽が映しだす豊かな自然が1400年前の飛鳥時代のまま残されていて、その自然の中には八百万の神々がおられ、その神々様は人々の心の中にもおられます。
また、周りの町が時代とともに姿を変えても、じーっとその変化を見つめながら、飛鳥時代の様々な出来事をすべて飲み込んで、地面の下から見守ってくれているように思います。かつて都が在った所は、現在は田んぼに変わっていますが、地面を掘れば様々な遺跡・遺物が姿を現す、そのことを私たちは知っているから目の前に広がる我が里を眺め、古代に思い巡らすことができるんです。そんな毎日はロマンそのものですね。
私たちのお宿を訪れてくださるお客様とお酒を飲みながら交わす歴史談義をはじめ、野菜や空気の美味しさ、静けさなどに感動してくださるお顔を眺めているときは、なんとも幸せを感じますね。その度にこの村に住み続けることができて良かったと感謝が湧いて来ます。
この先もずっとこのままで在り続け、訪れる人々に安らぎを与える場所であって欲しいです。今回、この村で撮影された映画「Boy Meet...」に出演させていただく機会に恵まれました。幅広く、明日香村の魅力が伝わっていくことを願います。
明日香のお宿キトラ
「飛鳥・藤原」の構成資産「キトラ古墳」の間近で営まれる「明日香のお宿キトラ」。一日一客限定の宿で、陶器製の露天風呂が好評。女将による絶品料理も味わえ、スペシャリテは野菜と牛乳と出し汁で煮込む郷土料理「飛鳥鍋」。「飛鳥・藤原」プロモーション短編映画「Boy Meets...」では、主役の直人とユニがはじめて渡来人の歴史に触れる場面で登場する。
https://asuka-kitora.com/