- 人と組織の活性化
- Report
2020.03.12
組織変革のゆくえ。進化するインターナルコミュニケーション
〔座談会〕竹中工務店×JCDの社内活性化への取り組み
企業を取り巻く環境が劇的な変化を遂げるなか、2020年も多くの企業が組織内部の文化や意識変革を求められています。インターナルコミュニケーションは、こうした意識変革を実現するキーワードの1つです。
今回、長年にわたり社内コミュニケーションの活性化に力を入れていらっしゃる竹中工務店の執行役員お二人にお話をうかがいました。竹中工務店は、昨年創立120周年を迎え、JCDは周年記念総会のお手伝いをさせていただいたという経緯があります。
お話をうかがったのは、竹中工務店の執行役員総務室長 高橋裕幸氏と執行役員経営企画室長 磯野正智氏です。JCDの経営陣と、企業を"内側から強くする"インターナルコミュニケーションについて、それぞれの想いや取り組み事例を語り合っていただきました。
座談会参加者----------------------------------------------------------------------------------------
株式会社竹中工務店
執行役員 総務室⻑ 高橋 裕幸氏
執行役員 経営企画室長 磯野 正智氏
株式会社JTB コミュニケーションデザイン(JCD)
代表取締役 社長執行役員 細野 顕宏
執行役員 ミーティング&コンベンション事業部長 町田 忠
司会
ミーティング&コンベンション事業部 塩谷 久美子
ワーク・モチベーション研究所⻑ 菊入 みゆき
(文中敬称略)
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※社名・肩書きは座談会開催(2020年1月)当時のものです。
経営層が社員との交流をはかることが組織の体力維持につながる
菊入
まずはインターナルコミニュケーションに関しての問題意識や取り組みについてのお考えをお聞かせください。
JCD 細野
意思の疎通・相互理解の必要性がコミュニケーションの核です。私たちの会社でも経営層と社員間のコミュニケーションについては4年前の会社設立時から取り組んでいますが、まだまだ多くの課題を抱えています。今日この場で竹中工務店さんと意見交換するなかで、改めて私自身が問題解決への気づきを得たいという期待とともに、楽しみに参加しました。
JCD 町田
JCDは、過去5年において7つの会社が統合し、2回にわたる再編を経て現在に至っています。それぞれの異なる文化や考え方が違う社員たちが、一緒のフィールドで働くことになったのです。そこで経営層や事業の責任者がきちんと社員との交流をはかること。これが組織の体力維持や業績向上に反映されることを実感いたしました。さらにインターナルコミュニケーションを考えると、社内だけでなく、取引先や事業パートナーとのコミュニケーションをしっかりととることの大切さにも気付かされました。
御社の創立120周年記念総会をお手伝いさせていただきましたが、その折、新入社員たちがこのイベントにおいて極めて"自分ごと化"して取り組んでいる様を目にした時、インターナルコミュニケーションがしっかりと御社の中で行き届いていると感じたものです。
CMなどの外向けの発信が社員の一体感を高める一助になる
竹中工務店 高橋
私どもの会社においてコミュニケーションで抱えている一番の問題は、現業である本支店と本社との距離感の遠さにあると思っています。また職種が多岐に渡るので、異職種間の交流が少ない点も挙げられます。これらひとつひとつの課題を解決すべく、日々取り組んでいます。
例えば最近行った年賀式などでは、その式の様子をオフィスにあるデジタルサイネージやイントラネットを活用し、全社へ発信しました。これで社員全員に社長や本店長といった経営層の思いや考えが行き渡るよう工夫をしました。
竹中工務店 磯野
コミュニケーションといえば、ここ2年くらい当社の姿勢を社会に向けて発信するために、動画によるCMなどを制作して、外向けの発信に力を入れてきました。その際気付かされたのですが、私たちのようなB to Bの会社が外向けに発信をしたものは、実は社内向け、つまり、社員のためへの発信という面でとても役に立っているということです。CMを社員や社員の家族、協力会社の関係者が見ることで、ロイヤルティが高まり、社員の一体感の醸成や誇りを持って仕事に取り組める事に、CMが一役かっているのですね。
菊入
JCDでは、「経営幹部の思いを伝える」ために、どのような取り組みをされていますか。
JCD 細野
弊社は設立時と2017年度の統合後に2度、キックオフミーティングを行っています。全社員を集めて私自らが事業運営方針をダイレクトに社員に語りました。1年前からは、毎月初日に全社員向けに朝礼を実施。各拠点の社員向けにはテレビ中継も活用しながらその折々の私の考えを発信しています。
JCDは様々な事業領域を持つ会社がひとつになってスタートした会社なので、いろいろな場面でトップの意向や意思を伝えることが難しいこともあり、まずは朝礼からはじめた訳です。
トップの人となりや想いが伝わると社員は親近感を持ちやすい
竹中工務店 磯野
私どもは部門長以上でも数百名規模ですから全社員を一堂に集めるのはなかなか難しいのですが、毎年2月に創立記念総会を実施しています。大阪と東京の2会場に部門長以上が集まり、経営幹部の意思を伝達しています。その他としては、年賀式、社内報、歴史資料展示室(大阪本店4階)、経営理念や社是・歴史が記された本や社史(10年史)、冊子「竹中工務店の底流」、その他社外向けの展示会などがあります。こうした機会や媒体を通して、経営幹部の想いを社員に伝えてきました。また、竹中工務店の新入社員は1年間、寮生活で様々な研修やOJTを行います。基本的に月に1回、役員が訓話を行い経営陣の考え方や想いを伝えています。
2020年1月11日~3月1日には、工匠の竹中藤右衛門が明治32年(1899)に竹中工務店を創立した神戸の地、神戸市立博物館において、一般の方向けの特別展「建築と社会の年代記―竹中工務店400年の歩み―」が開催されました。
菊入
先ほどもお話にありましたが、社外に向けた発信が、実は社員向けに"伝える役割"を担っていることがよくわかります。
竹中工務店 高橋
実はこれだけの規模の会社になると、経営層の顔がわからないといった若手社員が実際にいるのです。だからこそ地道な取り組みでも内側から発信し続けていかなければ、なかなか経営層の想いまでは伝わらないですね。
JCD 町田
若手社員まで伝えていくには、発信者サイドでのフォローアップも必要です。部門長なり上司が、トップの言葉を噛み砕いて説明したり、目線を落として伝え直したりすると良いでしょう。トップメッセージは、通り一遍の話ではなく、あらゆる角度からパーソナル性、人となりを打ち出すと、社員たちにとっても親近感が醸し出されて伝わりやすくなります。
新入社員は寮生活で、同期との強いつながりが生まれる
JCD 細野
弊社では、社内報については紙のグループ報とイントラを通じたデジタルでの社内報を併用しています。情報の到達度を鑑みて、紙ベースのものでいくか、デジタル化で進めるのか、それぞれの利点・欠点を秤にかけながら今後も検証していかなければなりませんね。
先ほど新入社員の寮の話がありましたが、これはとても良い事例ですね。若手社員の一体感が生まれる場として機能していると思います。月1回行われる役員の方の訓話は、どのような内容のお話がなされるのですか。
竹中工務店 磯野
テーマはそれぞれのスピーカーが決めています。社長は、グループ・グローバルな視点から経営理念をひも解いたり、海外担当の役員は自分が担当する海外事業などについてそれぞれが経歴に基づいて自分の成功・失敗談など踏まえて語っています。一年間の寮生活での経験は、定着率にも貢献しているでしょう。新入社員時に同期との繋がりが強くなり、いわゆる"魔の3年離職率"も弊社では圧倒的に低い結果になっています。
雑談ができる場づくりの推進
菊入
町田さんが事業部長を務める事業部では「One on Oneミーティング」を活用しているそうですが、ご説明いただけますか。
JCD 町田
働き方が多様化するなかで、事業部員全員を集めて意思疎通をはかることは現実的には難しくなっています。それでもできる限り、社員と経営層が直接話をする機会を作っていかなければなりません。私が担当する部門では現在240名ほどの社員が働いています。このメンバーたちと1年に1回は必ずFace to Faceで話し合う機会を設けています。その時の話は、今現在の確認よりも将来のキャリヤプランやJCDが掲げているビジョンや方向性などに、自分自身が重ねられるか、お互いに確認しあう未来志向型のミーティングにしています。ここ一年くらいはインターナルコミュニケーションに注力してきたことで、だいぶ意思疎通がはかれるようになったと手応えを感じています。
塩谷
聴いてもらえる姿勢が上司にあれば、部下としては信頼感につながっていきます。
竹中工務店 高橋
人事的な側面でいえば、自己申告制度や上司との個人面談などがあります。また課題に対しての共有シートをベースにした面談を設定しています。ただこうしたかしこまった場できちんと自分の考えや想いを伝えられる社員と、くだけた場でしか本音がでないという人がいると思います。そうした様々な社員たちそれぞれと最適なコミュニケーションがとれるよう総務部門としては、ワークプレイスプロデュース本部と一緒に連携しながら、「総合力の発揮できるワークプレイスと働き方の実現」というゴールを掲げ、自らの理想のワークスタイルを議論・検討しています。こうした場を東京・大阪のオフィスを皮切りに全国に展開しています。具体的にはABW(Activity Based Working)という仕事内容に応じて、働く場所を選ぶワークスタイルを取り入れたり、"雑談ができる場"を作ってコミュニケーションの活性化や推進に取り組んでいます。
社長診断会、社長ダイアログで活発な議論
竹中工務店 磯野
各事業部の運営状況(課題)を知り、議論・指導するという意味では、竹中品質経営(TQM)の診断プログラム「社長診断会」が大きな役割を果たしています。毎年、年一回社長を含めた経営層が各本支店などの事業部を訪問して、経営計画に対する実施状況などPDCAサイクルの展開を確認しています。また、来期以降の方針を含めた議論をしています。
竹中工務店 高橋
経営層が現地現物で本支店などから生の声を聞く、貴重な場となっています。会議の関係者は準備や運営にパワーを要しているという面はありますが、品質経営を基本として事業活動を行っている弊社の活動の柱と言えると考えています。
竹中工務店 磯野
さらに「社長ダイアログ」といって、社長と社員がワークライフバランスの向上について3時間くらい話し合い、様々な施策を打ち出していく機会を設けました。保育所の提携や時短勤務など、いろいろな意見が飛び交い、ダイアログから出た意見の下に業務プロセスや制度の変更などが実施されるケースもあります。実際、ここ1年だけでも多くの人事制度が改定されました。
竹中工務店 高橋
ダイアログでは若手からも自由で活発な発言が飛び出して、経営層と若手社員双方にとって良い刺激になっていますね。これだけ現場の声を社長が知っている会社は、他にはないだろうと自負しています。
スポーツアスリートとの交流で社内の一体感醸成
JCD 町田
JCDではスポーツビジネスにも力を入れています。大イベントがある今年は特に、JTBグループとしても、一丸となって推進しています。社内の各セクションでスポーツアスリートとの接点も多いです。また、社員である障がい者アスリート小池岳太選手の応援活動もしています。
私たちの仕事は一人で完結できるものはありません。各人が持つ個性を活かしながら、その個性をお互いが理解してつながりを持たなければ成し得ない仕事ばかりです。スポーツアスリートとの交流や応援は、交流の促進や一体感の醸成という意味では、一役買ったのではないでしょうか。
塩谷
社内のSNSでは社員が自主的に応援メッセージをアップしたりして、盛り上がりをみせていました。
竹中工務店さんでは、なにか一体感を醸成する取り組みはなされていますでしょうか。
竹中工務店 磯野
最近ホームページをリニューアルしました。今までは施工させて頂いた建物を中心に掲示していましたが、今回から若手の社員が登場し、建物をつくる社員1人1人にフォーカスした内容にしています。また社内で毎年テーマを決めて、提案コンペを行っています。ここで評価した提案は基本的には必ず実現するようにしています。たとえば世の中に竹中工務店のやっていることを動画やCMでアピールするといったテーマに対する高評価だった提案は、実際にテレビCMや地下鉄車内の動画広告でも流れています。また弊社には公益財団法人が3つありますが、社員と財団が連携することで、建築文化の発信を一体感を持って行えるように意識しています。
JCD 細野
社員が登場する動画などは、一人ひとりにスポットを当てて期待値を高めるといった会社の想いが伝わるメッセージになっていますね。
「インターナル」の概念が変わる
菊入
竹中工務店が掲げるグループ全体の事業領域を「まち」として捉える成長戦略は、新しいカタチのインターナルコミュニケーションだと思います。詳しくお聞かせください。
竹中工務店 磯野
単に建物を建てるというのではなく、社会課題を解決しながら様々な取り組みを実現できるようチャレンジしています。また今後も2025年に予定されている「大阪・関西万博」などに関連する大型開発が目白押しですが、これからは都市自身が変貌を遂げる未来都市づくりに向けて、新しいまちづくりに取り組んでいきます。そのためにはオープンイノベーションや産学官連携等を通じた新たな共創が大切であり、大学の研究室や今までおつきあいのない企業とも協業していきます。これからはもっともっと事業領域の異なる組織や人が連携していかなければ未来志向のプロジェクトは成し遂げられないでしょう。その意味でもインターナルコミュニケーションの重要性はさらに高まるはずです。
塩谷
インターナルの概念が変わり、社内だけでなくお客様までも含めた共同体として考えるべきですね。
JCD 町田
いろいろな企業群がある中で、単独ではもはや社会課題を解決できません。一緒に取り組む、まさに共創していく動きが加速されるでしょう。特に竹中工務店さんの2025年のグループ成長戦略を拝見し、まちを創った後に、まちを活性化させるため、我が社としても交流促進を促す取り組みで協業できると確信しました。
インターナルのコミュニケーション。広い意味ではまちの中のステークホルダーと対話を通じてボトムアップするまちづくりに貢献できると考えております。
今後も御社とタスクフォースを作り、意見交換しながら進めていければ幸いです。
座談会を終えて
JCD 細野
非常に刺激になる有意義な時間をありがとうございました。会社は組織です。その組織が活性化していくためには、ハードもソフトも含めて重要になってきます。今日お伺いしたお話を、ぜひ弊社でも経営に活かし取り入れていきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
JCD 町田
御社の様々な取り組み、そして経営層の意志の伝え方を具体的に伺うことができ大変参考になりました。一体感の醸成は、上に立つ人間が絶えずコミュニケーションの機会を作り続ける努力が必要であることがわかりました。
竹中工務店 高橋
今日こうしてお話しさせていいただく機会をいただき、改めて「コミュニケーションをデザインする」ということは素晴らしいことだと実感しています。
竹中工務店 磯野
私たちは400年以上続いている会社ですが、その時代に合わせた対応をして、変わり続けなければいけません。伝統は引き継ぎつつも、技術革新など社会環境の変化が早いスピードで加速する昨今、多くの会社と協業して新しい価値を創造していかなければならないと考えております。これからも様々な分野で御社と協業できることを期待しています。
■株式会社竹中工務店様 会社情報
本社所在地 :〒541-0053 大阪市中央区本町4丁目1-13
創 業 :慶長15(1610)年
創 立 :明治32(1899)年
資 本 金 :500億円(2020年3月現在)
売 上 高 :1兆3,520億円(2019年度連結)
従業員数 :7,630人(2020年1月現在)
URL :https://www.takenaka.co.jp/