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2023.06.29
JTBの新CM「いよいよ海外旅行はじまる」は、こうして生まれた
日本を元気にするプロモーションに懸けた
それぞれの想い
目先の集客だけに拘るのではなく、見る人を明るく元気にしたい。そんな思いで海外旅行の需要喚起に他社に先駆けて乗り出した株式会社JTB。2023年2月4日より「いよいよ海外旅行はじまる」シリーズのTVCMが全国で放送され、大きな反響を呼びました。新型コロナウイルスの感染状況が刻一刻と変わるなかで、CM制作に許された期間はわずか2ヶ月。業界を代表する覚悟で海外旅行復活の口火を切ったJTBと、そのCM制作の企画と実働を担ったJCDコーポレートソリューション部。両社からCM制作に携わったキーマン5名を招き、日本中に元気を与えたCM制作の舞台裏について聞きました。
1 コロナ禍で大打撃を受けた旅行業界。プロモーションのリアル。
――まずJTB様にお伺いしたいのですが、コロナ禍においては旅行が制限されプロモーション活動も思うようにできませんでした。どのような心境でいらっしゃいましたか。
斎藤氏 コロナ感染が急速に広がり、多い地域で複数回の緊急事態宣言が発令されるなど2020年から2021年は、打つ手がないほどに旅行業界全体が落ち込みました。私たちJTBの生業は、人々の交流やふれあいを創造すること。一方で当時はほとんどの方が自宅に篭らなければならないなど移動の制限を強いられていました。そのような我慢の時期に旅行のプロモーションはできるはずもありません。では、どうすればお客様とのつながりを持てるのか。必死で考え続けた2年間でした。
吉井氏 これまで経験したことのない事態でしたから、不安がなかったといえば嘘になります。けれど我々は立ち止まっていたわけではありません。いつコロナが収束しても対応出来るように水面下で計画はずっと続いていました。といっても敵は、未知のウイルス。状況は刻一刻と変化し、計画を立てては中止に追い込まれ、また計画しては中止を決断し......、そんなことを何度も繰り返しました。非常にもどかしかったです。ただ、準備を怠るわけにはいきませんから、そういう意味では常に忙しかったなと記憶しています。
間宮氏 そんな中でも、コロナ禍で培われた良い面もありました。店舗の来客数が急激に減った分、オンラインのコンテンツは強化が進みました。オンラインで楽しんでもらえる動画コンテンツを配信したり、お客様とのつながりを絶やさないよう努めました。
――CMの実際の作り手の立場であるJCDは、どのように見ていましたか?
古矢 吉井さんがおっしゃったように、JTBさんがプロモーションを計画されても感染拡大によって立ち消えという状況が続いたので、制作を担う我々もまた、企画を立てることすらままならず、非常にもどかしかったという気持ちは、同じでした。
間宮氏 日本国内における旅行機運の高まりと、2022年10月に厚生労働省による水際対策の大幅緩和が実施された事が、海外旅行プロモーション再開の大きなきっかけになったと思います。
2 リーディングカンパニーとしてできること。新CMの与件とJCDの提案。
――数年ぶりに海外旅行プロモーションの再開の、喜ばしさの反面非常に大きなプレッシャーもかかりますね。JTB様からJCDへその想いをどのようなオーダーとして伝えられたのでしょうか。
吉井氏 事前にJTB海外支店の社員や観光業に携わっている人にヒアリングすると、「日本のお客様にきてほしい」と心待ちにしていました。そうした現地の生の声を届けたいと思いましたし、国内の調査データによると「海外旅行」「ハワイ」といったキーワード検索が急増してこともわかりました。さらに当社が独自に行ったアンケートから、お客様自身も海外旅行を再開したいと思っていることを既に確信していました。それであれば、旅行業界のリーディングカンパニーである当社が業界を代表して海外旅行のプロモーションに踏み出そう。最後はそんな責任感が、新CM「いよいよ海外旅行はじまる」の制作にGOサインを出す後押しとなりました。
間宮氏 とはいえお客様の多くは海外旅行に3年のブランクがあります。「まだまだ危険なんじゃないか」といった不安を払拭する必要がありました。また、CMの目的は直接的な申込者増ではなく、まず海外旅行そのものの需要再喚起であるべきだと考えました。CMを通して「やっぱり海外旅行って楽しいよね」「海外だからこそ体験できることってあるよね」といったワクワク感を伝える。これが私たちの想いでした。
斎藤氏 今回CM制作を依頼するにあたり複数の候補会社さんに、そうした私たちの想いを伝えるためのコンセプトシートをお渡ししました。想いが強いがゆえに、あれもこれもと伝えたいことは溢れていたので、ある程度提案の余白を持たせた依頼書で、あとは我々の想いをどう具現化するかについては制作会社さんの発想力とアイディアに委ねることにしました。
古矢 斎藤さんの仰る通り、コンセプトシートには3年分の想いがぎっしりと盛り込まれていました。さて、どのようにまとめればよいものか、最初は頭を抱えました(一同笑)。たとえば安心感やワクワク感といった情緒的な要素だけでなく、販売チャネルの多彩さも強みとして伝えたい、といった希望も書かれていました。しかし全てを盛り込んでしまうとCMが薄味になってしまう。何をどう優先させCMに反映すべきか、まずは情報を整理することから始めて、伝えるべきことの本質は何か、数々のJTBさんのプロモーションに携わって頂いている協力会社さんにも加わって頂き何度もMTGを重ねました。
斎藤氏 最終的にCMの制作依頼はコンペで決定しました。制作会社の最終決定は当社の役員を含めて行いましたが、社名はOPENにせず企画の内容だけで採用案を判断してもらいました。JCDさんがグループ会社だからという忖度は一切なく、最終審査を行いました。身内の情が出るのも、逆に色眼鏡で見てしまうのもフェアではないと考えたからです。
結果として、先ほど古矢さんがおっしゃった「伝えるべきことの本質とは」ということがまさに決め手となりました。JCDさんの提案を見て「今いちばん伝えたかったこと」に我々自身が気づくことできた。それが一番大きかったですね。
間宮氏 具体的に良かったポイントは2つありました。ひとつは世界各地のJTB現地法人の仲間たち自らが演者になるという企画だったこと。「日本のみなさんに会いたい」と自分たちの言葉で表現することに意味があると感じました。世界中に現地でのサポート体制が整っているというJTBの強みも、彼らを通してお伝えすることができます。もうひとつはカラフルな表現法です。「フォトジェニック篇」では世界の名所を、「グルメ篇」では世界の食事を、色彩豊かなで鮮やかな画像を画面いっぱいに溢れさせることで、「海外旅行っていいな」「またあの場所に行きたいな」と、CMを観た人が前向きな気持ちになれる様子がまさにイメージできました。
3 CM公開までの工程、公開後の手応えと次なる展開。
――企画が決定し、制作工程に入ってからの舞台裏も教えてください。
新田 制作においてまず苦労したのは時間との戦いです。発注を頂いてから実質の制作期間は2ヶ月ほどしかありませんでした。動画のオープニングで女優の伊礼姫奈(いれい ひめな)さんが海の向こう側を見つめるシーンがありますが、実はあの場面を撮影したのは12月26日。真冬の千葉の海岸だったのです。伊礼さんのご予定やその後の制作進行を考えるとその日しかなく、すべて1日で撮り切らないといけませんでした。幸い天気にも恵まれ、伊礼さんの頑張りのおかげもありとても良いシーンが撮影できました。
間宮氏 「ぜんぶ行くから待っててね」などの印象的なセリフも、実は同日中にロケバスの中を即席のスタジオにしてアドリブでその場で録られたものでしたよね。「ぜんぶ行くから待っててね」が、この時の日本のお客様の気持ちを一番代弁してくれているように感じられて、とても気に入っています。
新田 CMに使用されている楽曲、秦基博さんの『Paint Like a Child』も、まさに映像のイメージにぴったりで、これも奇跡のようなご縁だったなと感じていています。
古矢 海外での撮影はまだ移動が容易ではなかった時期だったので、現地のJTBスタッフの方々に自らスマートフォンで撮影してもらうことにしました。彼らから届いた映像を、日本で編集する方式です。しかし撮影のプロではないスタッフの方が撮影する事になりますので、「こういう角度でこんな映像を撮ってほしい」と事前にオンラインミーティングを行なって詳細をすり合わせしました。
我々の予想以上に現地スタッフの方々が「日本から旅行に来てほしい」「こんな魅力を知ってほしい」という気持ちで臨んでくれたので、とても素晴らしい映像が集まりました。
――公開後の反響はいかがでしたか?
間宮氏 CMをご覧くださったお客様だけでなく、国内の旅館やホテルといった関係機関の皆様から、海外旅行のCMにも関わらず、「旅行気運を高めてくれて感謝する」「感動した」といったお声が寄せられ手応えを感じました。そして、社内での評判もとても良かったです。国内だけでなく海外の支店からも喜びの声がたくさん届きました。
古矢 本来企業CMである場合、販売数や売上貢献にとことんこだわってCMを作るべきなのでしょうが、今回はそうではなく「見てくれた人の気持ちを明るくしたい」という想いをストレートに伝えたことが、たくさんの人の心に届いたのかなと思います。私たちも「JTBさんの新しいCMがすごくいい」とお声をいただくことが多く、嬉しく思っています。
吉井氏 数値的な手応えもありまして、YouTubeの「サーチリフト調査※」によると、WebでJTBを検索してくれている人のうち、CMを視聴してくださった方と未視聴の方との差は162%ある事が分かりました。このことから、新CMはJTBブランド認知向上に貢献していることがわかりました。
※広告による対象キーワードの自然検索上昇率を把握する調査。 広告と接触したユーザーの検索行動の変化を可視化。態度変容の効果測定指標の1つとして活用される。
間宮氏 「いよいよ海外旅行はじまる」シリーズで期待以上の反響と効果が得られましたので、5月から展開中の「ココロオドル夏旅」キャンペーンでも、しっかりとJTBの魅力を伝えていきたいです。
古矢 観光業の一番の繁忙期は何といっても夏休みシーズン。5月から夏旅CMを国内篇・海外篇と公開し「JTBならお得に旅を楽しめる」というキャンペーンの告知をしています。今回はJTBさんの強みである多様な販売チャネルについても訴求していきます。
吉井氏 現在、国内旅行の需要はコロナ前の2019年と変わらない水準まで戻っています。一方の海外旅行の回復はまだもう一押しといったところですが、お問合せ件数ベースでは、4月度実績で前月比150%アップとこちらも回復の兆しを見せています。
間宮氏 観光庁が5月から「パスポート取得費用サポートキャンペーン」を再開したところ、今年の2月3月に実施した際の申込数を、たった5日間で突破したと聞きました。確実に海外旅行復調の流れが来ていると肌で感じています。
――最後に今後のJCDへのご期待もお聞かせください。
斎藤氏
信頼関係は築けておりますので、マーケティング活動における引き続きのサポートを
お願いしたいと思っております。我々の想定を超える提案を期待しています!
間宮氏 一番JTBに必要なモノを理解頂いているパートナーとして、今後も引き続き一緒に新たな価値をお客様にお届けしていければと思っております。
吉井氏 販売促進はもちろん、ブランディング領域まで深めたところでご一緒させていただきたいと考えています。人々の交流やふれあいを創造し、それがまた成功体験や喜びとして共有できたなら、これほど嬉しいことはありません。
――JCDが目指すべきプロモーション プロモーションで実現したい事は?
新田
今回のCMは機運醸成というブランディング的なアプローチでしたが、私自身その反響を非常に身近に感じることができました。一方的なコミュニケーションではなくメッセージをきちんとユーザーに届けることの重要性を再認識しました。今後もユーザーとクライアント両方の視点に立ちつつ戦略的なプロモーションを目指していきたいと思います。